不安への構えとコロナウイルス

 

 コロナウイルスの感染が拡大するなか、不安を口にする人々が増えています。イレギュラーなことが起こっているため不安を感じるのは当然と言えるでしょう。しかし、不安というものは過剰になると日常生活や精神面に支障をきたしてしまう側面があります。

 

 精神分析の考えでは、人には不安に対する2つの心の構えがあるとされています。それは簡単にいうと次のようなものです。

 

P-Sポジショ:不安を自分の中だけで抱えておくことが難しく、外の何かに投影する心の構えです。不安が生じると、被害的、他罰的な認識が優勢となり、不安を自分のこととして引き受けるのではなく、迫害的に外部のもののせいにする態度と言えます。
抑鬱ポジション:不安を自分のものとして抱えておく心の構えです。不安が生じても、相手の立場や周囲の状況もしくは自分側の要因について思いをめぐらせ、現実的にできる努力に専念する態度と言えます。

 

 例えば、恋人の言動がいつもよりそっけないと感じた時、前者であれば「きっと私のことを嫌いになったんだ」もしくは「誰かが私に関する悪い噂を吹き込んだのではないか」などと考え、後者であれば「何か理由があるのだろう」もしくは「先日のやり取りが関係しているかもしれないから聞いてみよう」などと考える、と言えます。

 

 P-Sポジションは不安を外に投げ込むために、やや現実の捉え方が歪んでしまい、過剰な怒りや恐怖を感じるという特徴があります*1。一方、抑鬱ポジションは不安を自分のものとして処理するため、不安に思いつつもそのままの現実を受け止めることが出来るのが特徴と言えます。どちらが良い悪いというものでもないのですが、P-Sポジションで居続けると、外の世界は怒りや恐怖を喚起するものだらけになってしまうため辛く感じることが増えるかと思われます。

 

 大事なことは、人はこの2つの心の構えの間を常に揺れ動くということです。その時々の心身のコンディションや周囲の対応によっても左右されますし、ちょっとしたことがきっかけで片方から片方へと移行することもあります。それが自然なことであり、誰でもP-Sポジションになりうるわけです。そして現在のように、実際にウイルスの被害が拡大しているという状況下では余計にP-Sポジションに陥りやすいとも言えるでしょう。

 

 コロナウイルス禍において、アジア人や医療従事者などへの差別や感染者への過度な批判といった、他者への攻撃的態度というものが取りざたされています。そこまでいかなくとも、コロナへの不安が大きい人の中には他者のちょっとした言動に過剰な怒りを抱くようになっている方もいるかもしれません*2。 そういった態度は、上に述べた2つの心の構えに照らし合わせると、まさにP-Sポジションによるものなのだろうと考えられます。

 

 現状、ウイルスに対して個人が出来ることは残念ながら限られています。私たちは不安を抱えながら、1人1人が出来る範囲の努力をしていくしかありません。しかし、不安のあまり他者に過度な攻撃をしてしまわないために、また、自分の状態を知ってケアしていくためには、上記のような不安にまつわる2つの心の構えがあり、私たちはその間を揺れ動きながら生きているということを知っておくこともまた大事なのではないかと思います。

 

 

*1:もちろん明らかに外部に要因があることもあるのですが。

*2:他者の言動や自分の置かれた状況に対する妥当な怒りや批判はまた別のものであり、大切なものです。

 

 

参考

『対象関係論を学ぶ 』松木邦裕(岩崎学術出版社)

2020年05月11日|ブログのカテゴリー:心・生き方, 心理学