カウンセリングはどのくらいの期間、受ければいいのですか?というご質問を時折いただきます。
これに対する答えとしては、カウンセリングで何について取り組むかによって異なるだろう、と言うことができます。明確な目標や限局された問題について取り組む場合は、短期間であったり、回数を限定して取り組むことが可能でしょう。しかし、自分の性格や対人関係、生き方そのものについて取り組む場合は、ある程度まとまった時間がかかると思われます。
ここで、精神科医である土居健郎の著書に記載されている、彼の患者さんの言葉を引用したいと思います。
雪は溶けても心は解けない。その解けぬ心を解かしましょう。急に解かしたらわれるといけない。少しずつヴェールをとりましょう。急にとると血うみが出るといけません。少しずつ心のうみを出しましょう。『精神療法と精神分析』(土居健郎)
この中で、「心」は、なかなかとけないけれど急にとかしたら割れてしまう何かであり、かつ、幾重もの「ヴェール」に包まれた何かでもあり、そして「血うみ」の出てくる怪我かかさぶたのような何かでもある、とされています。これらは、「心」が、すぐには変わりがたいものでありながらも、一方では、容易に割れたり「血うみ」が出てしまうような繊細なものでもあることを表していると言えるでしょう。
実際、自分自身について考えてみても、心にはとても変わりがたく頑丈な部分がある反面、非常に繊細で壊れてしまいそうな部分もあるように感じるのではないでしょうか。
心と言うのは、複雑で矛盾しています。意識できている部分もあれば、無意識に隠れていて自分では分からない部分もあります。分かった!と思うことがあっても、再び分からなくなることもあります。全く正反対の気持ちが同時に沸くこともあります。そして、絶対に変わらないような強固さと、簡単に崩壊してしまいそうな脆さを備えています。
自分の性格や対人関係、生き方そのものを変えるのにある程度時間がかかるのは、これらの問題が、このように複雑で矛盾した「心」と密接に関連しているからと言えるでしょう。何事にもスピードが求められる時代ですが、だからこそ、心というものに対峙するときくらいは、ゆっくりとヴェールをとるように、もしくは雪をとかすように、時間をかけていくことが必要なのだと思います。
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